・ぶつかったり分裂したりしても、全体の運動量の総和は変わらないよ
西暦2325年。
ここは、地球から20億光年離れた宇宙空間。
宇宙飛行士のKさんは仕事の惑星探索を終え、宇宙ステーションに戻ってきました。

あー疲れた。これから宇宙食堂にラーメンでも食べに行こうかなー
ところが、宇宙船のエンジンを作動させて出発した途端、突然何かがぶつかったような衝撃音が。窓から見ると、思わぬ物体が船外に散らばっているのが見えます。どうやら、近くの食堂が事故って、どんぶりを宇宙空間にばら撒いてしまったみたい。


危ないなぁ、もう
しょうがないので、Kさんは宇宙服に着替えて船外に出ました。手にはテニスのラケットを持っています。これで、あたりを飛び交っているどんぶりを打ち返すつもりのようです。
右の方から重そうなどんぶりがゆっくりと向かってきました。ただし、質量は大きくても速度が遅いので、勢いはありません。

ふん、運動量はそんなに大きくなさそうだな

Kさんがラケットを振ると、どんぶりは進んできた向きと反対方向に飛んで行きました。
今度は、左の方から小さなどんぶりがものすごい勢いで飛んできました。質量が小さくても猛スピードで、運動量が大きいのが分かります。Kさんはこれも反対方向に気持ちよく打ち返しました。

よーし、どんどん来ーい!
調子に乗って数十回ほど打ち返した後、Kさんはふと我に返りました。乗ってきた宇宙船の姿がありません。焦って周りを見渡すと、遥か遠くに点のようになった船が見えます。そういえば、うっかり命綱も付けていませんでした。

このままじゃ漂流してしまう、どうしよう…
Kさんは、どんぶりに力を加えたとき、自分もどんぶりから同じ力で押されていたことを、すっかり忘れていたのでした。じつは打ち返すたびに力を受けて、あっちこっちに動かされていたことに気づいていなかったのです。
Kさんは手足をジタバタさせましたが、船に近づく気配はもちろんありません。大ピンチです。もうダメだ…と諦めたその時、起死回生の一手を思い付きました。

そうだ、これしかない!
Kさんは持っていたラケットを、船と反対方向に思い切り放り投げました。すると、大成功!
見事、Kさんの身体は船にゆっくりと近づいていきました。ロケットがガスを噴射して前に進むのと同じです。

助かった…
運動量保存則により、ラケットを投げる前のKさんの運動量は、投げた後のラケットの運動量とKさんの運動量を足したものに等しくなっています。


宇宙では、何か投げるものを持っていると役に立つことがあるかも。なるべく質量の大きいものを、進みたい方向と反対向きに勢いよく投げましょう。
ぶつかったり分裂したりしたとき、それぞれの運動量は前と変わっても、全体の運動量の総和は変わらないんだね。